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コラム
Column
離婚・男女問題

人身保護請求の使い道。

Lちゃん「初めて聞く言葉ですね。」
 
太田「そりゃそうだ、滅多に使わないもん。法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる(人身保護法2条1項)。そして、何人も被拘束者のために、請求をすることができる(同2項)。」
 
Lちゃん「逮捕・監禁罪じゃないですか! 警察に通報した方が早いです。」
 
    太田「なので、拘束が直ちに犯罪といえない場合に使われています。やっぱりメインは子どもの奪い合い事案。」
 
    Lちゃん「なるほどー。じゃあ、お母さんが子どもを連れて家を出た場合も申し立てされちゃうんですか?」
 
    太田「その場合、申し立てはできるかもしれないですが、実際に申し立てをする弁護士はいないと思いますね。というのも、人身保護規則4条に、『法第2条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。』とあるの。親権者が子どもを連れて家を出てる場合はこの規則4条で準備調査でほとんどはじかれちゃう。」
 
Lちゃん「ちょっと安心しました。お母さんが別居できなくなるのは困ります。」
 
太田「昔はこの4条がなかったから、結構申し立てが多かったみたいね。しかし、離婚前の奪い合い事例については、『その監護が請求者の監護に比べて子の幸福に反することが明白であることを要する』って最高裁(平成5年10月19日判決)の判断が出て、それ以降激減しています。」
 
Lちゃん「その最高裁判決がきっかけで人身保護規則4条ができたのですね。」
 
太田「そう、これを明白性の原則と呼んでいます。だもんで、離婚前の子の奪い合い事案については、まず家裁に子の引渡しや監護者指定の審判、仮処分を申し立てるのがスタンダード。」
 
Lちゃん「へー。しかし、じゃあどういう場面で人身保護請求を申し立てるんですか?」
 
太田「離婚後に親権者じゃない方の親が子どもを連れ去ったとか。この場合は『幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、拘束の違法性が顕著であるというべき』という逆明白性の原則があります(最高裁平成6年11月8日判決)。」
 
Lちゃん「しかしそれは誘拐です!」
 
太田「まあ、確かにこのケースは警察が動く場合もあるんだよね…」
 
Lちゃん「全く使い道がないじゃないですか、人身保護請求!」
 
太田「ちょっと待って。例えば、離婚前の子の奪い合い事案で、監護者指定や子の引渡し審判で監護者に指定され、子の引渡しも認められたのに、子どもを返してくれないケースはどうか。」
 
Lちゃん「そんなことあるんですか?」
 
太田「あります、あります。」
 
Lちゃん「審判や仮処分で強制執行できますよね?」
 
太田「強制執行っていっても、執行官が例えば旦那さんをぶん殴って子どもを取り上げてくるとかできませんからねー。」
 
Lちゃん「そりゃそうです(笑)」
 
太田「したがって、そのケースでやっと人身保護請求の出番となります。最高裁平成6年4月26日判決によれば、子の引渡しを命じる仮処分・審判が出されたのに拘束者が従わない場合は人身保護規則4条の明白性を満たすとされます。」
 
Lちゃん「しかし、人身保護請求にも応じない場合があるんじゃないですか?」
 
太田「人身保護請求ってかなり強力な手続でね、裁判所まで勾引したり、勾留ができてしまう。勾引には刑訴法の規定が準用される。」
 
Lちゃん「おっと! 最終的には警察が出てくるんですね。だったら、かなり強力です。」
 
太田「ってことが分かってたら、普通は審判や仮処分が出た段階で任意で子どもを引渡すんですけどね…」