LGBT
性同一性障害(GID)の差別的取り扱いは違法となる?
※本来、私人間においては私的自治の原則が働くのですが、差別的取り扱いが認められないこともあります。ここでは東京高裁平成27年7月1日判決を例にとって、性同一性障害(GID)の差別的取り扱いが違法となることを確認していきましょう。
太田「ねえ、Lちゃん、ゴルフ場の入会審査って知ってる?」
Lちゃん「すみません、私、ゴルフはやらないので、その方面は全く・・・。」
太田「私もなんですよ(笑)。でもほら、たまに相続問題なんかやっていると、被相続人がゴルフ会員権を持っていて、その相続が発生するとかあるじゃない? 相続したからといって、相続人が当然にそのゴルフ場でプレーできるわけではないのですよ。」
Lちゃん「え、そうなんですね。相続人も入会審査を受けるということですか。」
太田「そうそう。やっぱりそのゴルフ場でプレーするのにふさわしい人物かどうかをチェックされるのね。書類だけじゃなく、面接や同伴プレーでチェックするゴルフ場もあるみたい。」
Lちゃん「わあ、面倒ですね。入会審査で落ちた場合や、そもそも相続人がゴルフに全く興味がない場合はどうしたらいいんですか?」
太田「その場合は売却するしかないね。専門の業者もいて買い取りしてくれるからさ。ゴルフ会員権ってバブルのころに比べると大幅に値下がりしているところも多いんだけど、名門ゴルフ場の会員権は今も結構なお値段だったりするんだよ。」
Lちゃん「ほへ~。よく分からない世界ですね。ちなみに、入会審査の基準にはどのようなものがあるのですか?」
太田「ゴルフ場によってまちまちなんだけど、国籍制限や年齢制限、社会的地位、性別、あとはゴルフの腕前とか。世界的に性別による制限はなくしていく方向みたいなんだけど、女性会員からでないと名義書き換えできないとかそういうゴルフ場はあるようですね。名門ゴルフ場ほど審査が厳しい。」
Lちゃん「会員であることがステータスシンボルのようなものですね。全く無縁の世界です。」
太田「私もゴルフのルールとか分からなさ過ぎて、事件でゴルフの話が出てくるたびに勉強しています(笑)。そういうことで、ゴルフ場というのは非常に閉鎖的な空間であるからして、私的自治の原則が強く働くので、ゴルフ場が会員を選別したからといってよほどのことがない限り違法にはならないはずなんですよ。ただね、やっぱり社会的に許容されない理由での入会拒否は違法となるので、ゴルフ場経営者の視点からすると、拒否の理由は一切非開示にしたほうがいい。まあ、そんなこと私に言われなくてもわかってるでしょうけど。」
Lちゃん「非開示・・・そりゃそうですね。」
太田「なお、私的自治の原則が働く場面でも憲法の規定が間接的に適用される、いわゆる『憲法の私人間効力』の話は、6年前にもこのブログで話題にしたので見ていただきたいです。」
憲法の私人間効力について : リンデン法律事務所ブログ~菩提樹の下で (livedoor.jp)
Lちゃん「応募者の採用にあたって問題となった三菱樹脂事件の判断ですね。企業の採用で企業側に選ぶ自由が認められるのなら、ゴルフ場の入会審査なんてもっと自由にできそうです。」
太田「普通に考えたらそうですよね。ところが、東京高裁平成27年7月1日判決の事案では、性同一性障害の女性(いわゆるMTF)の入会をゴルフ場が断ったことが違法と判断されました。」
Lちゃん「え、女性の入会制限が認められるのに?」
太田「そのゴルフ場、性別による入会制限はないんですよ・・・ゴルフ場の株式を取得して、あとはゴルフ場の規定にしたがって入会申し込みすれば拒否されないだろうという期待が持てる状況だったことが判決文からうかがえます。」
Lちゃん「審査が比較的緩やかなゴルフ場だったんでしょうか。ちなみにゴルフ場の言い分は何ですか?」
太田「女性会員がロッカールームや浴室などを利用する際に不安感を抱くであるとか、50年以上みんなで築いてきたクラブの親睦や交流の一体感を傷つけたくないであるとか。」
Lちゃん「前者はまだ分からないでもないですが、後者は・・・。」
太田「後者がだいたいのゴルフ場の本音のような気もしますが、まあ、理由にはならないですよね。結論として裁判所は、本人が戸籍だけでなく外見(声や外性器も含む)も女性であるし、実際女性用の施設を使用した際に特段の混乱等が生じていないことから、性同一性障害が本人の意思に関係なく生じる疾患であることが社会的に認識されているので、ゴルフ場が構成員選択の自由を有することを考慮しても憲法14条1項や国際人権B規約26条の規定の趣旨に照らし、社会的に許容できる限界を超えて違法であると判断しました。」
Lちゃん「あ、本人さんがいわゆる『パス度高い』状態だったんですね! それなら女性会員も混乱しないでしょう。」
太田「そうですね。なので、これがもしどう見ても男性で、性自認のみ女性というような場合だったらまた結論が変わっていたと考えます。その場合には確かに女性会員が不安感を抱く場面もあるでしょうし。ただ、私的自治の原則が強く働くゴルフ場であったとしても、性同一性障害であることのみを理由に入会拒否をすれば違法と判断されるということに意味のある裁判例です。」
Lちゃん「あ~、ゴルフ場の入会拒否でさえ違法と判断されるのであれば、その他の場面だとより違法と判断されやすくなるということですか。これからは性同一性障害を理由とした差別的取扱いは認められないということを周知・徹底していかなければいけないですね。」